ブレッソンが自ら台本を書き下ろした現代の寓話。
無垢なロバと少女マリーの残酷な運命を描く。
ロベール・ブレッソンが、非情な男たちの悪意に傷つけられる若い女性マリーと彼女の愛するロバの数奇な運命を描いた異色作。
構想は、ドストエフスキーの長編小説『白痴』のある挿話から得た。原語では韻を踏む題名「あてどなく(るびオ・アザール)バルタザール」は、新約聖書に出てくる三博士の一人バルタザール王の末裔と称する中世に権勢をふるったレ・ボー家領主の銘に由来する。
ブレッソンは、まず積年の企画『湖のランスロ』の製作を希望したが製作費が高すぎるため本作に変更、1年をかけ脚本を書き上げた。
製作を請け負ったのは、アナトール・ドールマンと、『シェルブールの雨傘』で成功を収めた製作者マグ・ボダールだが、さらにスウェーデン映画協会及びスヴェンスク・フィルムインドゥストリ社との合作映画となった。
マリー役には当初別の女性が決まっていたが、『ジャンヌ・ダルク裁判』に主演したフロランス・ドゥレの紹介により、ロシア貴族の娘で、当時17歳のアンヌ・ヴィアゼムスキーが起用された。
製作条件からスウェーデン人俳優の出演が要請されたため、『スリ』の出演者マリカ・グリーンの弟ヴァルテル・グリーンほかが出演。
浮浪者アルノルド役のジャン=クロード・ギルベールは、この映画の助監督でアルメニア系の極左活動家ジャック・ケバディアンの知人のアナキスト。
このほか、高名な作家のピエール・クロソウスキーも吝嗇な穀物商人の役で出演している。