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ここにあるのは、親子以上の年齢差を隔てた二人の日本の作曲家による、師弟愛に満ちたコラボレーションなどでは、まったくない。 
かつてコンピューター音楽の最先端で苦闘しながら、ある明晰な倫理的理由によって、以後の長い間、音とデジタルな演算との結び付きを、自らに厳しく禁じてきた高橋悠治は、21世紀に入って突然、ラップトップを手にした。もちろん、それが嘗てコンピューターを封印したのと同じ強度の倫理的理由によるものであることは疑いない。
この「転回=回帰」は、音楽史上の「事件」であるとさえ言える。

一方、若い渋谷慶一郎は、フォーマルでアカデミックな音楽領域から出発しながら、おそらく同世代の誰よりも鋭敏かつ真摯であったがゆえに、あっけなく制度から逸脱してゆき、現在のポスト・テクノロジカル状況における「作曲家」としての在り方自体を問い直す、という困難な試行は、ATAKの始動と slipped diskとしての活動にまで至った。

多くの者にとっては今なお居心地が良いのだろうアカデミズムの「閉域」から身を引き剥がすにあたって、かつて他ならぬ「逸脱」の先達たる高橋の薫陶を得たこともある渋谷は、しかしこの作品においては、偉大な年長者への畏敬の念に囚われることなく、その強烈きわまる「問題提起としての電子音響」を高橋へと真っ向から突きつけている。
そして対する高橋も、渋谷のラジカルな挑発にベテランらしく鷹揚に応じるどころか、凶暴な牙を剥き出しにして、筋金入りの制度破壊者たる正体を露わにしてみせるのだ。

両者の闘いは、驚くべきスリリングなものだ。だがむろん、彼らは互いに戦っているのではない。彼らは同じものに対して闘おうとしているのだ。それが何であるのかを敢えて言葉にするのは野暮というものだろう。

佐々木 敦(headz/fader)

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