Photography Mario Sorrenti. Fashion Director Alastair McKimm. Yuka wears Chanel T-shirt. Braces Stylist's Studio.
"愛"という言葉を2号目となる今回のテーマに選んだ編集部では、そのシンプルさゆえに掴みきることができず、漠然としたまま企画を考えはじめていました。ちょうどその頃にロンドンのヘッドオフィスから「マリオ・ソレンティでカバーストーリーを」という話があり、急遽ニューヨークに旅立つことに。ソーホーにあるスタジオでは撮影開始からすでに8時間を越えるハードなスケジュールにさすがのマリオも集中力が途切れるかと思いきや、納得がいくまで粘る、粘る。彼は当たり前のようにこなしていましたが、相当な精神力を必要とするであろう濃密な撮影でした。些細なことかもしれませんが、チームを率いる長としてスタッフをその気にさせるという点からも、彼が世界的な活躍を続けている所以を感じました。撮影後、スタッフとの雑談のなかでマリオが何気なく言った「やっぱり僕は、写真を撮るのが大好きなんだよ」という言葉に、ハッとさせられる自分がいました。流れる月日とともに経験を積んでもなお、変わらない愛を注ぐ。そんな仕事への絶えない情熱こそ、クリエイターにとって至極の愛ではないでしょうか?
アンダーエイジなどのSTRAIGHT UPS特集では、モデルとして登場してくださった方々が直球の質問を受けて真摯に答えてくれたことをうれしく感じました。選挙権年齢が18歳に引き下げられたこのタイミングで、自分が住む国の行く末を案じる。普段の会話のなかではあまり話すことのない愛について、そしてその愛がなくなったときに起きた事件などについて、少し時間を割いて考える。彼らの正直で真っ直ぐな眼差しは、対面して話を聞く私たちを通して、自分たちが生きる今の世のなかをしっかりと見つめていたように思います。他者に伝えることを恐れず、自分を取り巻く状況や世界に目を向けるというその姿勢に、新しい時代を創っていく逞しさを感じました。
音楽の特集では、音楽家たちが多くの印象的な言葉を残してくれました。灰野敬二さんの「ゲームは敵を倒したら得点になるけど、誰かを助けることによって点数が加算されないのか?」というシンプルな問いから、彼の音楽に対する志が強烈に響いてきました。「顕微鏡でみたLOVE」「地球が焼け野原になった後に出てくる微生物」「その愛により地球が新しくなる」といった坂本慎太郎さんの独自の視点には、彼の生み出す世界観に通じるものを感じました。クリエイターたちが育むちょっと風変わりで素敵な愛も、この号での楽しみのひとつになっているはずです。
宗教、人種、ジェンダーといったさまざまな違いを受け入れられずに、世界中では戦争やテロ、殺人をはじめとして心が痛める事件が多く起こっています。平和ボケしていると言われる昨今の日本で、身近な愛について改めて考え、言葉に出して伝えること。それはとても小さなことだろうし、急に世界を変えることは決してできないけれど、きっと大きな意味があると私たちは考えます。家族、恋人、仲間、ファッション、音楽、仕事……それぞれに向けられる愛のかたちは、人の数だけ違います。この号を読んだ読者の皆さんが、ほんの少しだけ気にして、愛について考える時間ができたのならば、嬉しく感じます。