神楽坂の情趣に富んだ日本家屋。
がらりと引き戸を開けて。
大型車が苦労しそうな神楽坂の曲がりくねった路地に、黒塗りの板塀に囲まれた一軒家があります。昭和24年に建てられた木造の民家。その昔日の姿を残したまま料理屋&カフェとしてよみがえらせたのが「KADO」です。
道の角にあるからカド。シンプルな名前の名づけ親は神楽坂で生活して18年というオーナー。お店をオープンしたきっかけをうかがってみました。
「この古い家との出会いがすべてでした。もともと神楽坂でバーを経営していたのですが、この家に惹かれて、なるべく住んでいた人の生活を残したままの形で、ゆっくり食事を楽しめる場所を作りたいと思ったんです」
板塀の門をくぐると懐かしい風情の玄関口が待っています。引き戸をすべらせて中に入ると、右手の土間はスタンディングバー。靴を脱いであがった先には、黒光りする廊下が続いていました。
落ち着いた畳の間は坪庭に向けて障子が開け放たれ、時おり涼しい風が入ってきます。縁側に置かれた鉢の中には、小さな魚が何匹か水草の陰に隠れていました。このたたずまいは、マンション住まいの私の生活からは失われて久しいもの。縁側を眺める私の視線は、古き良きニッポンに憧れる外国人のそれと変わりません。
同行の知人も「縁側は、前の時代のいわばオープンテラスだったんですね」と、その居心地の良さに目を細めていました。
脚つきのお膳を前にして座布団に座ろうとすると、さりげなく膝掛けがさし出されました。これでスカートが短めのときでも安心。お膳はオーナーの実家が営んでいた旅館で使われていたものだそう。