“ご飯”でコース料理を組み立てるという、かつてない試みが、神楽坂の日本料理店「虎白」で行われた。最年少でミシュラン三ツ星に輝いた料理長・小泉瑚佑慈氏が、蒸気の力のみで炊き上げるBALMUDA The Gohanのご飯のさまざまな魅力を引き出した、変幻自在なコース。常識にとらわれずに機能の本質を究めたモノづくりを目指すバルミューダと、そぎ落とした中に美味しさの本質を求める「虎白」だからこそ実現し得た、稀有な試みであった。
取材・文:小松宏子
写真:野口健志、松本健太郎
主食であるばかりでなく、日本人にとってはスピリットそのものと言える“米”。旨い飯が食いたいという日本人のその情熱は驚くばかりだ。今や10万円を超える炊飯器も珍しくない。ここ数年は土鍋に近い炊き上がりを目指して、米を躍らせて炊く手法が主流となっているが、敢えてその固定概念に真っ向から挑んだのがバルミューダだ。軽々と既存のトースターの常識を覆したように、今また、ご飯の美味しさの価値観を覆そうとしている。
炊飯の仕組みは唯一無二のものだ。研いで水に浸した内釜を、水を張った外釜の中に入れ、外釜の水を蒸気に変えてその熱で米を炊き上げる。静かに、力強く。そのため、米一粒一粒がこすれて傷つくことがなく、粒の中に甘みと旨みを閉じ込めたまま、しっかりと炊き上げることができる。口に含めば、まずしゃっきりとした粒を感じ、噛みしめたとたんに特有のいい香りが広がり、甘みと旨みに口中が満たされる。いわば、昔の羽釜で炊き上げたご飯に近い、すっきりと端正な味わいだ。
BALMUDA The Gohanのふたを開けると、とにかく、その粒立ちの美しさに驚かされる。“上手に炊きあがったご飯は米一粒一粒が立ち上がる”。これは日本人なら誰もが知るところ。BALMUDA The Gohanがその基本をクリアしているのはもちろんのこと、柔らかな湯気と優しい香り、そして木杓子を入れたときに手に伝わる感触など、五感を通して美味しさが予感できるが、実際に食べれば、その期待感を上回る口福に満たされる。
そうしたバルミューダならではの美味しさを、食べ手にわかりやすく伝えたいと、代表取締役の寺尾玄氏自ら、「虎白」小泉氏に、ご飯だけのコース料理を作って供してほしいと頼んだのである。
ご飯ばかりで、コースを組み立てる。至難の業だ。しかし、小泉氏もまた、初めてBALMUDA The Gohanで炊いたご飯を一口食べて驚いた一人だ。炊き上がりの美味しさに、しゃっきりした粒立ちに、一粒一粒に閉じ込められた旨みに、感心した。冷やご飯にいたっては、予想を超えた美味しさに既成概念を覆されたという。そうした、BALMUDA The Gohanの魅力を分解していけば、いくらでも方向性の違う料理が考えられるではないかと、“ご飯”懐石という初めての挑戦が楽しくてたまらなくなったという。あくまでシンプルに、けれど、効果的にその魅力を伝えたい…。時間をみつけては試作に励んだ。
去る3月某日、1枚の招待状を頼りに、食通で知られる各界の著名人20人ほどが神楽坂「虎白」に集まった。トースターでバルミューダの名は知るも、発売するや話題沸騰、すでに2カ月待ちというBALMUDA The Gohan の炊き上がりを試したものはまだいない。
人気、実力ともに東京屈指の割烹「虎白」の料理でその性能を試すことができるのだから、いやがうえにも期待は高まる。朝食は抜いてきた、いや、BALMUDA The Toasterで焼いたパンだけは食べてきた、などと、口々に期待に胸を膨らませている。さて、小泉氏の「今日は、存分にお米のおいしさ、ご飯の可能性を味わっていただきたい」との挨拶の後、炊き上がったばかりの一口の白ご飯が供され、本邦初公開の“ご飯”懐石の幕があいた。