去る10月20日、21日、西麻布に移転したばかりのレストラン「81」で、トースター界の常識を打ち破るBALMUDA The Toasterを使用して、永島健志シェフがコース料理をクリエイトする「トーストナイト」という、前代未聞のイベントが開かれた。

「81」の永島シェフは、世界一予約のとれないレストランとして名を馳せた伝説の「エルブリ」で修業を積んだのち、そのスピリッツを受け継いだクリエイションレストランをオープン。劇場型のパフォーマンスで瞬く間にミシュランの星を獲得した新鋭だ。果たして、どんなパフォーマンスが繰り広げられたのだろうか。

取材・文:小松宏子 写真:土居麻紀子, 大杉健太(Sumally)

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コードネームは「エルブリ」

無駄を省いたミニマルなデザインのトースター、扉を開けば、見たことのない弁、そして、小さな給水口が現れる。そこへ付属のカップで、水を5cc。いざスイッチオン。熱線がゆっくり点灯を始め、次第に力強く赤く輝く。小さな窓からはパンが色づくのが垣間見え、香りが漂い始める。取り出したトーストは、外さっくり、中はふんわりもちもち。今まで食べたことのない美味しさに、誰もが驚き、喜ぶ。

この驚嘆するほど美味しくパンが焼けるBALMUDA The Toasterの秘密は、完璧な温度制御と少量の水にあるという。偶然にも土砂降りの中で行われた社内のバーベキュー大会で、信じられないほど香ばしく焼き上がったパン。要因は炭火と水蒸気であったことをヒントに、感動できるトースターを目指して科学的なアプローチを積み重ねながら5,000枚のパンを焼き、到達したのがBALMUDA The Toasterなのだ。2015年6月に発売になるや、圧倒的な評価を得ている。

実は、開発中のコードネームは「エルブリ」だった。それは料理の世界においても、実験、検証を繰り返しながらーーバルミューダのモノづくりと同じ手法でーー世界を驚かせる料理を作り続けてきた伝説のレストラン「エルブリ」に感銘を受けた社長の思い入れからの命名だった。そして、そのコードネームこそが、「81」のシェフ、永島との出会いを生んだのである。

「BALMUDA The Toaster」というバトンを託されて

BALMUDA The Toasterの発売後、「エルブリ」で修業を積んだシェフのクリエイションが評判のレストラン「81」の話を聞いたバルミューダの寺尾玄社長は、さっそく店を訪れた。パフォーマンス性やクオリティの高さに驚くとともに、クリエイティブで素晴らしい体験を提供したいという「81」に、同じゴールを目指すもの同志のシンパシーを感じ、バルミューダのクリエイションのすべてを込めたBALMUDA The Toasterで、永島氏の渾身のクリエイションを見せてほしいと、バトンを渡した。それこそが、この記念すべきコラボレーションの始まりだった。

「モノにもエネルギーがあるんです。それが詰まっているかどうかは見てすぐにわかる。BALMUDA The Toasterを渡され、まずそれを感じました。同時に、そぎ落とされたデザインの美しさにも強く惹かれました。常々、料理はシンプルであれと思っている私ですから、まさに共感。そして使ってみると、これがすごい。これまで無理と思われていた、クロワッサンの焼き上がりの状態が完璧に再現できるのですから。バルミューダとなら面白いことができる、そう思ってコラボレーションを引き受けました。」

しかし、そこからが難問だった。なぜなら、パンを買ってきてBALMUDA The Toasterで焼くだけで、感動の体験が得られる。つまり、それ以上の感動を与えるのが難しいということ。自分たちにできることは蛇足なのではないか…と。しかしそこから、永島の、エルブリ魂ともいえる、科学的なアプローチが始まった。トーストモード、クロワッサンモード、フランスパンモードと、あらゆる温度制御と材料を組み合わせて試したという。こうして「81」の世界観の中にBALMUDA The Toasterのコンセプトと機能を生かしたコース料理「秋の恵み」が完成したのだ。

体験を提供する場、モノづくりを目指して

「エルブリ」という名が引きあわせた2人、かたや家電というモノを作る寺尾と、料理の世界に生きる永島。ジャンルは異なれど、話すほどに、考え方に共通点が多いことに驚かされる。

まず、2人の根底にスペインという国があることがその一つだ。「エルブリ」で修業した永島は言わずもがなだが、実は寺尾も高校を中退し、スペインへと旅立った経験を持つ。最初にたどり着いた南部のロンダという町で、疲れ切った体で食べた1個のパンの涙が出るほどの美味しさが、食は感動体験になりうる、という考え方の根源になった。一方、永島は食べることは生きるために必要かつ神聖な行為であるが、同時に人は食べることを楽しむ義務もあると考える。だからこそ、レストランでは食を通じた感動を提供する場でありたいと、そのために驚きが喜びに代わるクリエイションやパフォーマンスを日夜模索しているのだ。

一方、寺尾は、モノにあふれた今の時代、消費者はモノを買うのではなく、体験を買っていくのだと、分析する。このことを改めて強く意識したのが、「世界一予約のとれないレストラン」という、エルブリのドキュメンタリー映画だったのだ。「エルブリ」というコードネームでモノづくりを進めるなかで、ゴールが「いいものを作ろう」から、「体験を提供できるものを作ろう」に変わっていった。

2人に共通する、誰よりも人を喜ばせたい、感動できる体験を提供したいというパッション、そしてそこへ到達するための科学的なアプローチと、真摯な追求、それがジャンルを超えた高い次元でのコラボレーションを可能にした要因だ。

機能+アイディアでトーストに価値を盛る

永島が、トーストナイトのメニューを考案するにあたって大切にしたのは、これまでのトースターではできない、クオリティの再現だった。なぜなら、パンを焼くだけで感動を与えられるBALMUDA The Toasterだからこそ、エンドユーザーであるゲストには、さらなる価値を盛ってバトンを渡さなければならない。写真はそれを端的に表すメニューだ。

左は「81」のスペシャリテである「カルボナーラの再構築」のバルミューダバージョン。カルボナーラを構成する要素は、卵、生クリーム、パルミジャーノ、黒コショウ、パスタ。通常の「81」では、卵黄に直接トリュフオイルを注入し、加熱した上にカダイフをのせて仕上げるのだが、今回は、食パンにトリュフオイルを注入し、チーズをのせてトーストモードで焼いた。BALMUDA The Toasterの水蒸気で、瞬時にトーストの表面がコーティングされるため、トリュフの香りが閉じ込められ、ナイフを入れるまで、気づかれない。美味しそう!のさらに奥にある深い驚きと喜びを、バルミューダは実現したのだ。

右がフォアグラとチョコレートのクロワッサンサンドだ。フォアグラとクロワッサン生地の、また、フォアグラと糖分の相性のよさは言わずもがなだが、焼き立てのクロワッサンがあってこそ。ところがBALMUDA The Toasterのクロワッサンモードなら、スタート時から3分間スチームを発生させ、170℃で温め、最後の20秒を180℃で焼くことにより、完璧に焼きたての美味しさが再現できる。これで、とろりと溶けたチョコレートとフォアグラそして、パリッとバターの香るクロワッサンは特別の一皿となるのだ。

トーストナイト「秋の恵み」の全容

光を極限まで落としたダークな空間に、コの字形に配したダイニングテーブル、その前は舞台だ。アペリティフを楽しんだゲストが席につき、支配人の挨拶でパーティはスタート。続くソムリエの説明が終わると、いよいよキッチンへ続く扉が開かれる。黒のコックコートに身を包んだ永島が、最初の一皿を持って現れ、トーストナイトの開演だ。一皿めは森の落ち葉を表現した品。68℃で6時間加熱することでさくさくに仕上げたポテトに、足の下でかさこそと音を立てる落ち葉を感じ、試験管に入った琥珀色の液体をストローで飲みほせば、森の湿度とキノコの香りが鼻に抜ける。3皿めのカルボナーラの再構築風トーストが運ばれると、「これはどうやって作るの?」、「あのトースターがあればできるの?」と、にわかにゲストも騒がしくなる。さらにフォアグラとチョコレートのクロワッサンサンドでそのハーモニーに酔い、すっぽんのスープで英気を養う。次は鮭のソテーを、フランスパンモードで焼いたフランスパンにのせ、鮨を思わせるフィンガーフード仕立てに、続いて供されたアクリルのジャーの中では、小麦の香りときのこの香りが一つになる。メインディッシュの鴨の低温調理の豊かな風味を味わったあとには、さっくりと温めたデニッシュ生地の上に、さらさらとチョコレートの砂がこぼれ、マスカルポーネのアイスクリームがひとつにまとめる。

イベントの感動をゲストと分かち合う

この夜、驚きと喜びに満ちたトーストナイトに参加したゲストは、各界で活躍するクリエイターやデザイナー、エディター、ジャーナリストなど多彩なメンバー。食やデザイン、モノづくりには一家言も二家言もある面々だ。3週間ほど前に、彼らの元に黒に金の縁取りのインビテーションが届いた。封を切れば、81×BALMUDA TOAST NIGHTとだけ書かれたカードが1枚。要町から西麻布に移り、ますます好調の「81」。そしてBALMUDA The Toasterを買ったという声を度々耳にするこの頃、両者のコラボレーションと聞けば、興味津々。パーティが始まる前の、バルミューダ寺尾社長による「世間では我々を家電メーカーと認知されているかもしれませんが、テクノロジーの力でクリエイティブを実現する会社です。その結晶の一つがBALMUDA The Toasterなのです」という言葉に、ゲスト一同ディナーへの期待が一層高まったことは言うまでもない。次々供される料理の自由闊達なクリエイティビティ、パフォーマンスの楽しさに、ほうぼうで歓声が上がる。その間も、舞台となる厨房の後方では、BALMUDA The Toasterの窓が赤く光り、キビキビと立ち働くスタッフの活気と呼応する。香ばしいデザート、そして芳醇な珈琲で締めくくる頃には、誰しもこの夜のかけがえのない体験を想い出に昇華させていた。

永島シェフが語るBALMUDA The Toasterの魅力

常々、「料理は科学、“理(ことわり)”を“料る(はかる)”と書くぐらいですから」という永島シェフ。感動するほどおいしいトーストを焼くために、水蒸気が必要という点を、科学的なアプローチを経て体現したことにまず感心するという。「レストランでも、パンを温めてサーヴするときによく、霧をふいてオーブンで焼いていますが、BALMUDA The Toasterでは、水蒸気を与えるという行為を事前に組み込んでいるのですから、一歩も二歩も先を行く美味しさなのも当然です」と。

また、デザインの素晴らしさも何より重要なポイントだと。そぎ落とされた無駄のないデザインが美しいのはもちろんだが、それ自体がユーザーの利便性にダイレクトにつながっている点が高評価だ。「デザインは外面だけのものではなく、デザインの高さがクオリティそのものも引き上げるのです」という。水蒸気を発生させるという、このトースターの最大の特徴を、ふたの開閉という動作に組み込み、誰にでもわかりやすく、かつ確実に行わせる仕組みまでを考えてデザインされていることが何より素晴らしいとも。「毎回水を加えるという手間すら、エクスペリエンスに替え、楽しませています。ユーザーは、ひと手間かけたということに満足し、自分が焼いたトーストにより愛着や価値を見出すのです」と分析する。

もう一つ驚いたのが、完璧な温度制御機能だったそうだ。トーストが焼き上がるまでには3つの段階がある。小麦粉がα化するまでの60℃の温度帯、メーラード反応(食品のたんぱく質が変性して、香ばしい香りや焼き目がつく現象)が起こる160℃の温度帯、表面をカリッとさせるための炭化の手前の220℃の温度帯。この3つの温度帯を、パンの種類や状態に応じてマイコンが完璧にコントロールしてくれるから、どんなパンでもベストな状態に焼き上がるのだという説明を聞き、「不可能と言われていた、クロワッサンの焼きたての状態が再現できるのも、そうした温度制御機能によるものだったのですね、合点がいきました」と永島シェフ、絶賛の焼き上りだ。

永島健志

1979年3月2日生まれ。愛知県出身。高校卒業後、自衛隊 護衛艦の調理室に配属になったことをきっかけに、料理人になることを決意。イタリアン、フレンチ、スパニッシュとさまざまな分野で修業を積むなかで、伝説のレストラン「エルブリ」フェランアドリアの著書を見て感銘を受け、エルブリで修業することを最終目標にスペインに渡る。半年エルブリで研鑽積み、帰国。2年後、要町に「81」を開き、ミシュランの星も取得。2015年9月9日、西麻布に移転オープン。クリエイションに磨きをかける日々。