graf 服部滋樹と建築家 谷尻誠が語る
新しい壁紙「WhO」のポテンシャル。

インテリア、アート、食などを通じて現代にふさわしいカルチャーを発信する大阪のクリエイティブ集団、graf。彼らが新しいコンセプトに基づく壁紙「WhO」をディレクションした。「WhO」は、高度なデジタルプリント技術を活用することで、これまでの壁紙に比べて圧倒的に多彩でフレキシブルなデザインを実現。その革新性は、人々の暮らしについての意識を変えるかもしれない。grafを率いる服部滋樹と、柔軟な発想により既成概念を超えた建築で注目される谷尻誠が、この壁紙に秘められた可能性について自由に語った。場所は谷尻が設計した建物の一室、壁面を彩るのは彼が選んだ「WhO」の壁紙だ。

取材・文:土田貴宏 写真:大杉健太(Sumally)

多様なバリエーションをもつ「WhO」

「WhO」は、豊富な色が選べる「COLORS」、多様なパターンが用意された「PATTERNS」、活躍中のクリエイターとコラボレーションした「CREATORS」という3つのラインがあります。こうしたコンセプトは、どのように発想したのですか?

服部滋樹(以下、服部)まず壁紙とはどういう存在なのかを考えました。現在、日本で流通している壁紙は、それ自体が魅力的なものはあまりない。一般のユーザーにとって選ぶ対象になっていないので、誰もが壁紙を使った部屋に住みながら、その存在を意識していません。第一に、そこを変えたいと思いました。僕は「道具としての価値」をいつも考えるんです。遠い距離を早く移動したいからクルマを使うし、デートの時に選ぶ服はキャラクターを表したり。そんなふうに道具とは、目的を叶えてくれるもの。しかし現在の壁紙は、自分が暮らしたい空間をつくる道具になっていなかった。道具として選ばれるためには、幅広い選択肢が欠かせないんです。
谷尻誠(以下、谷尻)自分の暮らす空間について意識を高めるのは、とても大切なことですよね。誰もが生活に対してもっと目利きにならないとダメだと僕は思います。ファッションや食についてはみんな関心が高いけれど、空間についてはまだまだですね。確かに壁紙は、デザインで選ばれるものになっていませんでした。
服部「WhO」に、我々がデザインしたものだけでなく、アーティストに参加してもらう「CREATORS」というラインがあるのは、いろんな人がかかわるほうがより多くの人々の興味を喚起できるから。普段、フレームに収まるものをつくっている作家が、空間全体を覆い尽くす作品をつくるのもおもしろい。こういう選択肢があることで、壁紙の可能性が2乗、3乗になっていきます。
谷尻最初に「WhO」の見本を見た時、正直に言って敷居の高さも感じました。万人向けの普通の壁紙とは、全然違う感覚で選ぶことになるからです。でも、そこがいいんだとすぐに気づきました。僕らと何かを共有できる人には、むしろとても合っているでしょうね。壁紙を使う人の創造性を引き出すようなデザインなんです。

壁紙をファッション感覚で選ぶ意味

今回は、谷尻さんが設計した「STUDIO LEALEA」の一室のために「WhO」の壁紙を選んでもらいました。

谷尻ひがしちかさんのデザインしたブルーの壁紙を使いました。「STUDIO LEALEA」は、本当に人が住んでいる住宅のようなスタジオです。壁一面に壁紙を張ったのは、その中でリビングルームのような空間。住宅らしく全体的にプレーンな建物なので、はっきりと建築とのコントラストが生まれるように大胆なパターンのものを選びました。
服部ちかさんは水彩が得意で、いつもは日傘などのデザインをしています。線を1本描いただけで物語が始まるような作風なんです。ただ、こんな大きさの絵は彼女も描いたことがないでしょう。小さい作品では気づかないような細かい部分も、壁紙になると見え方が変わるのが興味深いです。
谷尻あとは僕が青が好きなので、ついこの壁紙を選んだところもあります。
服部谷尻くんはおしゃれだもんね。ファッションと同じ感覚で壁紙を選ぶ、そんな楽しみがあっても良いんじゃないか。気分を上げたいとか、気持ちを整えたいとか、そのための道具に壁紙がなれれば望ましい。本来、ファッションも建築も、大きさは違っても、人を包む衣としては同じようなものなんです。そこはどう考えてますか?
谷尻僕はかなりファッション的に建築を捉えています。住宅の中でも、その部屋がフォーマルなのかカジュアルなのか考えたりする。フォーマル一辺倒になりそうだったら、それはダサいから古着を入れてちょっとハズす、みたいな考え方です。
服部そして、そういうところに、その人らしさが出る。
谷尻ファッションなら、最初は雑誌を見て真似するけど、だんだん物足りなくなって、雑誌には出ていないものを組み合わせて、失敗する(笑)。でも最初から失敗しない人はいないんです。みんな恥ずかしいファッションだった時代を乗り越えていて、そういう経験が個性を育てていくような気がします。
服部壁紙は、たとえ失敗しても、また張り替えられるというメリットがあります。やがて壁紙が、暮らしについて意識を変えるきっかけになるかもしれません。1990年代、UFOキャッチャーが流行した頃は、みんなテレビの上とかにUFOキャッチャーのぬいぐるみを置いていたんです。でも同じ時期にイームズの椅子が流行って、あの椅子を買って部屋に置くと、誰もがぬいぐるみの存在に違和感を覚えた。「WhO」の壁紙も、そういうものになりうると思っています。ある壁紙が気に入ったから、部屋で使ってみる。その次のステップとして、壁を自分でペイントする人がいるかもしれないし、メジャーなアーティストの写真を買って飾る人がいるかもしれない。空間に対してアクションを起こすのはすごく楽しいことです。

ずっと完成しない空間に合う壁紙「WhO」

これから「WhO」は、どんなブランドになっていきますか。

服部「WhO」はデジタルプリントの壁紙なので、とても短いスパンで新作を発表することが可能です。季節に合った壁紙はもちろん、その月のテーマに沿った壁紙を販売するのもおもしろい。デザインを毎月更新していくと、雑誌のようなメディアと同じことが壁紙でできるわけです。
谷尻季節の食材みたいに新しい壁紙を出せるんですね。その考え方は、僕が考える建築の形に近いのでとても共感します。建築はある段階で完成するもので、納期までにできないことはしょうがないとされている。でも自然が移ろうように、空間が変化し続けてもいいと思うんです。そのために新しい壁紙に変えてもいい。
服部grafにとっても、人が暮らす空間が完成しないことは大きなテーマです。完成したものは、やがて輝きを失ったり、手垢がついたり、風化していくことになる。でも80%の完成度なら、残りの20%の隙間をどうデザインするか使う人が考え、結果として120%のものになるかもしれません。「WhO」は使う人ととても近い感覚でものがつくれるブランドだから、自分らしい住空間をつくるため、いろんな場面で役に立つ可能性があるんです。

服部滋樹

1970年大阪生まれ。graf代表、クリエイティブディレクター、デザイナー。美大で彫刻を学んだ後、インテリアショップやデザイン会社を経て、1998年にgraf設立。建築、インテリアなどにかかわるデザインや、ブランディングディレクションなどを手がけ、近年では産地再生などの地域活動までその能力を発揮している。京都造形芸術大学芸術学部情報デザイン学科教授。

谷尻誠

1974年広島県生まれ。建築家。SUPPOSE DESIGN OFFICE代表。穴吹デザイン専門学校卒業後、建築事務所を経て2000年に広島で自身の設計事務所をスタート。商業施設、ブティック、住宅などの建築設計やインテリアデザインを手がけるほか、ミラノはじめ海外でのエキシビションにも携わる。著書に「1000%の建築」(エクスナレッジ)ほか。大阪芸術大学准教授。